公開記事

クリエイターや起業家を育て、 たくさんの挑戦や事業が生まれる。
そんな仕組みを持った村。

物質より体験に価値を感じる時代! その意味を感じる瞬間とは。

今の時代は、物よりも体験を買うという。
その本質を、今回の旅で知れたような気がする。

眼下には雪原と雪の山脈が広がっていた。
どこまでも遠く、遥か向こう側まで、雪で覆われているのだ。
飛行機の中から見た景色は、これまで見た飛行機からの景色とくらべても、異質な光景だった。これまで、南方面の旅がほとんどだったからだ。
雪で覆われた大地は、目に真新しかった。

カナダ最北の街。ユーコン。
ほぼアラスカの文化を土地全体に宿す、小さな街だ。
その歴史は古く、ゴールドラッシュ時代に栄えて今なお、当時の面影を残す。

空港に到着すると、鹿の剥製が、出迎えてくれた。
生きた状態の猛々しさを持って、二頭の鹿が、角をぶつけている。
空港は、とてもこじんまりした空港だった。
だが、ローカルの良さを存分に押し出した空港は、大きなそれよりも、圧倒的な存在感を持って、僕達を迎え入れてくれた。

空港で待っていてくれたガイドに引きつれられ、車でロッジへと向かう。
山のプロだという彼は、山という趣味をそのまま仕事にしたのだそうだ。
夏の期間はカナダで山岳ガイドをし、冬はオーロラガイドを仕事にしている。
マッキンリーにも登った時があるようだ。
60キロの荷物を背負って登った体験を、とても充実した声音で語る。
自分の仕事を語る時の彼の顔は、とても活き活きと輝いている。
今の環境を、心の底から気に入っているのが分かった。

僕は、この時、何かポジティブな違和感を感じたのだ。

気をつけないと、見落としてしまいそうな違和感である。
それが何かは分からないまま、車はロッジに到着した。

イン・オン・ザ・レイク。
ロッジはそう呼ばれていた。
マーシュ湖と呼ばれる湖の側に、静かに佇んでいる。

日本人が、雪の中のロッジを想像したら、まさにこうなるだろう。
誰もがロッジの理想形であると話すような雰囲気に溢れた場所だった。
木で出来た部屋、湖を一望出来るようにと貼られたガラス。
暖炉に地下室、ビリヤード台を始め様々な遊び道具も用意されている。
サンタクロースが宿に使っていると言っても、言い過ぎではないかもしれない。
自室にはジャグジーが用意されていて、ベランダからは北の空が眺められる。
ベッドはキングサイズで、広い部屋に相応しい風格を放っていた。

ただ、部屋のそれよりも、楽しみにしていたことがあった。
湖がまだ凍っていて、広大な雪原と化している。
その上を、自由に散策できるようなのだ。
しかも、今日は暖かく、なんと普段着でも寒くないのである。
極北にいて、日本と同じ格好でも外を散策出来るのだ。

僕は靴だけ履き替えると、すぐさまロッジの裏から抜け出した。
ヘッドホンとスマートフォンだけ持って、湖へ足を落とす。

目の前は、遠くまで広がる雪原と化していた。
誰かに教えて貰わなければ、到底、湖だとは気づかない。
一呼吸置いて、そのまま雪の上を歩き始めた。
途中まで自然の音を楽しみ、少し歩いて好きな音楽を聞きながら歩く。
雰囲気を最大限に作り出す、好きな音楽の音色が、僕のイメージを包み込む。

しばらく歩くと、だいぶ、岸から離れていた。
いつの間に、こんなに遠くまで歩いて来てしまったのだろう。
そこで、僕はヘッドホンを外して周りを見渡した。

静かだ。

爽やかな風の音以外、何も聞こえてこない。
遥か遠くまで、無駄なものは何一つ無い。
全てが、ある調和と規則性を持って、成り立っていた。

その時ふと、車の中で感じた「ポジティブな違和感」を思い出した。
途端、あの違和感が何だったのか、その正体に気づいたのだ。

今まで都会で働いていてきた。
その中で得て来たのは、名誉や物質的な規模、もちろん精神的な充実や、問題解決することで生まれる社会貢献への面白さなど、宝物と呼べる経験を手に入れてきた。

言ってみれば「自分の掲げた目標」を達成することで得られる充実だ。
だが、彼等の味わっている充実は、僕達の「目標達成」のそれとは、まったく違うものだ。

今、自分が大自然とふれあい、仕事をしていることへの充実。
様々な自然現象と共に生きていける「体験」そのものへの充実。

将来的な目標達成や、その過程に対する充実ではない。
自分が、今「体験」している現状そのものへの充実なのだ。

実際、これは都会にいては、味わいづらい感覚である。

人は、真新しい刺激に出会った時、最大の充実感を味わう。
それは、僕らのやってきたような「達成」を軸に感じるものではない。
偶発的な状況、全く知らない世界観、圧倒的な現象。
そういった、想像力が追いつかない「体験」に触れることも充実に繋がる。

全く想像力が追いつかなかったのは、今回もそうだ。

極北で防寒具なしで湖の雪原を散歩する感覚なんて知らなかった。
この全く想像し得ない感覚が、想像以上の充実をくれるのだ。

これまでは都会に足を運ぶことが多かった。
海外も同様で、実際、東京の感覚をそのまま引き継いでいるようだった。

だからこそ、知らない景色や知らない感覚が、新鮮に思えた。
それは、どんな豪邸に住むよりも、物質的な何を持っているよりも、充実した感覚に思えて仕方なかったのだ。

近年、人々は物質的な価値よりも感覚的な価値を重要視するという。
未知の世界や想像し得ない文化。

全く知らないものに出会った時の経験は想像を越える。
物質的なそれとは比べ物にならない価値を自分の中に残していく。
想像を超えた価値は、物質的な充実を凌駕する大きな衝撃を刻んでいく。

体験とは、全く想像出来ないことへの出会いと経験なのだ。
その出会いが、人間の想像力を拡張させていく。

車の中でガイドさんの話に感じたポジティブな違和感。
それは、僕が知る感覚とは全く異なる充実感の片鱗が、そこにあったからなのだと気づいた。
人は、そんな非日常における想像を越えた感覚を求めているのだ。

未知なる文化、想像出来ない経験。
その本質を、僕も追求して提供して行こうと思う。

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